要約
・インコやオウムの黄~緑色は、psittacofulvin (シッタコフルビン)という色素が関与します
・Psittacofulvinを体内に合成するために、MuPKSというタンパク質が働きます
・MuPKSがアミノ酸変異 (R644W)によって機能できないとpsittacofulvinが合成されないため、インコ/オウムの色は白~青色になります
・MuPKSをコードする遺伝子の点変異はメンデルの法則に従い、青色の表現型は潜性遺伝 (劣性遺伝)です
・したがって、両親のMuPKSをコードする遺伝子を調べることで、子の羽色を推測できます
・例として、セキセイインコの遺伝性は以下の通りです
父親♂ | ||||||||
R/R | R/W | W/W | ||||||
R | R | R | W | W | W | |||
母親♀ | R/R | R | ||||||
R | ||||||||
R/W | R | or | or | |||||
W | ||||||||
W/W | W | or | ||||||
W |
インコ/オウムの色素 psittacofulvinとは?
インコ/オウムの色素は、黄色系の色素であるpsittacofulvin (シッタコフルビン)や黒系の色素であるmelanins (メラニン)が挙げられます。本項では、黄色系の色素であるpsittacofulvinについて説明します。
Psittacofulvinは、赤色~黄色を示すポリエン構造を持った色素です。例えば、セキセイインコの羽根にpsittacofulvinがあれば、黄色を示します。さらに、構造色によって、緑色を示す部分もあります。すなわち、セキセイインコの羽根にpsittacofulvin色素があれば、黄色もしくは緑色を示します。
※構造色とは、羽根の微細構造によって光の分光が起こり、色が異なって見える現象です (例:CDやDVDの裏面が光の角度によって虹色になる)。
ちなみに、psittacofulvinは、セキセイインコの羽根の小羽枝 (しょううし)や羽枝 (うし)の外側に存在しています。また、セキセイインコを含むインコやオウムはpsittacofulvinを作ることができますが、鶏やカラスはpsittacofulvinを作ることができません。
青色の表現型とその遺伝について
黄色色素psittacofulvinを合成するためにMuPKS (Melopsittacus undulatus polyketide synthases)と呼ばれるタンパク質が働きます。MuPKSがアミノ酸変異によって機能しなくなると黄色色素psittacofulvinを合成することができなくなり、羽根は白色を示します。また、構造色によって、青色を示す部分もあります。
MuPKSのアミノ酸変異は、644番目のアミノ酸がアルギニン (R)であれば野生型、トリプトファン (W)であれば変異型です。また、MuPKSのアミノ酸変異は潜性遺伝 (劣性遺伝)であることが分かっています。すなわち、遺伝子型がR/RもしくはR/Wであれば、MuPKSは働くので、黄色色素psittacofulvinが合成されて黄色 (+構造色で緑色)を示します。一方で、遺伝子型がW/Wであれば、MuPKSは働かずpsittacofulvinが合成されないため、白色 (+構造色で青色)を示します。
なお、MuPKSをコードする遺伝子は、1番染色体 (常染色体)に存在しています。性染色体に存在しているわけでないので、性別と青色表現型は関係ありません (性別によって青色になりやすい、ということはありません)。
※Melopsittacus undulatus = セキセイインコの学名
※polyketide synthases = ポリケタイド合成酵素。本項で言うと、psittacofulvinの基本構造であるポリエン構造を合成するタンパク質
両親の表現型と子の表現型
MuPKSの両親の遺伝子型がR/RもしくはR/W (表現型:黄色~緑色)の場合、及びW/W (表現型:白色~青色)の場合における子の遺伝子型および表現型は下表の通りです。
当店では、MuPKSの点変異 (R644W)を測定することが可能です。鳥類の遺伝学的調査や適切な繁殖 (ブリーディング)に本検査結果をご活用ください。詳細はこちら。
引用
TF Cooke, et al. Genetic Mapping and Biochemical Basis of Yellow Feather Pigmentation in Budgerigars. Cell. 2017 Oct 5;171(2):427-439.e21.
F Ke, et al. Convergent evolution of parrot plumage coloration. PNAS Nexus. 2024 Mar 13;3(3):pgae107.